俺たちの物語

ぺんぎん「ふぃ~… やっと終わった…」

エンジニア「ああありがとう」

ぺんぎん「ドライバーがセッティング変更作業を手伝うって、イマドキあるかぁ?」

エンジニア「しし、し仕方ないよねメカニックさん、みみんなクビになっちゃったし…」

ぺんぎん「…うん……」

エンジニア「ぺんぎんさん」

ぺんぎん「うん?」

エンジニア「僕、今回のレースで最後だから」

ぺんぎん「え…」

エンジニア「今回の塗装代で、もう来月の給料払えないって、代表が…」

ぺんぎん「は!? バカすぎるだろアイツ!!」

エンジニア「あ、でもたぶん冗談だと思うよ… 代表、ここのところ毎日スポンサー探して走り回ってるし。塗装も、真っ白だとプロのレーシングチームっぽくなくてどの企業も相手にしてくれないからって……」

ぺんぎん「………」

エンジニア「最後のレース、勝ってくれよ」

ぺんぎん「(無言でうなずく)」

やつれたチーム代表「…おやおや? 誰かと思えばウチのスーパーエースコンビじゃないですか! ついに最終戦ですよ! FBCのチャンピオンに相応しいのは我々です! あの黒いフェラーリの前でゴールすればいいだけのことです! 簡単ですよね!?」

ぺんぎん「……当然ですよ! 絶対勝ちます! 任せてください!」

FBC GTcat 2021 Rd.8最終戦、鈴鹿サーキット! 中止になったF1日本GPの代替イベントとしての開催です! ペンギン選手は今シリーズ8戦中4回目のポールポジション獲得! 圧倒的じゃないか、我がマクラーレンは! あまりのポテンシャルに他チームから「ズルい」「反則」「オレらが乗ればあと1秒速く走れる」とまぁ 最後のはペンギン選手が勝手に受信した脳内電波ですけども、とにかく酷い言われよう。でもそんなの関係ねぇ! 誰が何と言おうと予選で速いクルマが一番カッコイイ。異論は認める(笑)

ただ今回は事前の非公式テストの情報によると、どうもポルシェ勢のレースペースが群を抜いて速い模様。これは普通に走ったらヤバイ。ので、作戦を考えました。やはりここは、序盤はできるだけタイヤを温存して、いざポルシェが来たときに防御できるようにしておくという… 名付けて「要所だけ速く走る作戦」(そのまんま)です!

シリーズチャンピオンを争うcara選手がスポット参戦のG選手のアシストでフロントローに並んだのは誤算でしたがぶっちゃけフェラーリは遅い。まぁ 大丈夫でしょう!

決勝は11周。1ストップ&40リッター給油義務。

完っ璧です! 完っ璧なスタートを決めたペンギン選手がトップで1コーナーを通過!

さあここからは「要所だけ速く走る」作戦。ペンギン選手の前でゴールすればチャンピオンのcara選手がテンションを上げていますが…

上げていますが……

うん、まぁ 想定内。想定内だよね。このくらい。

直線番長なめんなよコラァ!!

はい、OK、OK。

む、まだ来ますか。そうですか。

ま、これも想定内。

ぺんぎん選手、順調に(?)トップをキープ。

と、ここでライオン選手がspoon選手をオーバーテイク! 地元ホンダNSX、がんばっています! 重ねて申し上げますが、今回のFBCはF1日本GP中止によりスケジュールに穴の開いた鈴鹿サーキットで行われております!

4周目、タイヤが落ちてきたcara選手@フェラーリを徐々に引き離し始めるペンギン選手@マクラーレン。よしよしいいぞー。完全に予定通りだ!

#82 PIT: OK, we are in good shape. Cara is behind 1 second.

するとここでspoon選手@ポルシェがピットイン! これは明らかに、ペンギン選手が作る「のらりくらり」ペースに嫌気が差して、からのアンダーカット狙いです!

#82 PIT: Spoon is box now. Push hard!! Box this lap, box!!

PEN: Copy!!

5周目で若干タイヤが怪しいペンギン選手ですが、ここは勝負所です!

5周目終わりでピットイン!

からの、ピットアウト!

なお金欠のペンギンレーシングさん。ピット作業を行うメカニックはファクトリー近くの高専に通う学生たちによる日雇いバイトです。その割には手慣れた作業?

spoon選手からピットアウトしてくる3台が見えました!

これはキワドイ!!

spoon選手がEVO選手とcara選手をまとめて交わして2番手浮上!!

それをバックミラーでしっかりと見ていたペンギン選手、冷静にインを閉めて2コーナーへ… トップは譲らず。

チャンピオンへ向けて、ここまでは完璧なレース運びです!!

しかしこの展開はちょっと悩ましい。これまでのレースを見ても、目の前に獲物がいる状態のspoon選手がブレーキングゾーンでカミカゼアタックを仕掛けてくるのは明らか。ペンギン選手的には、そこで接触でもしてcara選手に前に出られたら元も子もありません。一方で、cara選手との間に1台のバッファが出来たことも事実で、それはそれで良い展開ともいえますしやっぱり最終戦だし優勝したい気持ちも強い。

どうする?

#82 PIT: OK, penguin. We need not keep Spoon behind. Need not keep spoon behind.

PEN: NO!! We’ll win!!

やっぱ勝ちたい!!

デスヨネー。

7周目、デグナーを立ち上がるペンギン選手。すぐ後ろにはspoon選手。下馬評通りバカッ速のポルシェです。やはり引き離せそうにありません。

ヘアピンのブレーキング。カミカゼアタックには十分注意して… とはいえさすがにこの距離で突っ込んで来ることはないでしょう。

通常のレーシングラインを通るペンギン選手……

(ゴンッ!)

!!?

PEN: He did!! He din again!! (ピーーー)!!!

#82 PIT: Calm down!! Caution!! Cara is behind you!!

罪悪感からかアクセルを緩めてペンギン選手に譲ろうとした(?)spoon選手。はっきり言ってペンギン選手的には1ミリも嬉しくない! cara選手のフェラーリが真後ろに来ている! 危ないピンチ絶体絶命!

スプーンの飛び込み! インを閉めるか!? いやそれだと脱出が苦しくなる… アウトからはEVO選手も来ている… どうすればいいんだ!?

と、ここでまさかのcara選手がタイヤスモークを上げてカミカゼアタック!?

接触したら飛ばされる…! なんとかギリギリアウト側をっ……!!

ペンギン選手、最下位に転落。

この時点で、シリーズチャンピオンは絶望的になりました。

PEN: Sorry… our story is the end.

#82 PIT: …….

そのまま惰性で走行していましたが、9周目終わり。

#82 PIT: Box!!

PEN: What!?

#82 PIT: Box now!! 最後にファステスト獲ろうぜ!!

PEN: は!? はは… Copy!!

ファイナルラップ! チャンスはこの1周のみです! ニュータイヤで全開アタックを誓うペンギン選手… の前になぜかピットインしていたtoy選手が出てきましたが…

PEN: Comeoooooooooooon!!!!!!!

#82 PIT: toy(ピーーーー)!!!!!

PEN: ちょっ(笑)

鬼パッシングのペンギン選手。というかスマンtoy選手! 今回だけは頼む! 頼むからどいてくれ同じマクラーレンのよしみってことで! 絶対ファステスト獲りたいんや!

ダンロップコーナーで抜いた! ここまででコンマ5秒ほどロスってしまいましたが… 最後まで諦めず予選バリの全開走行を続けるペンギン選手、果たして……

優勝はEVO選手。レッドブルホンダのスペシャルカラーをオマージュしたリバリーを身に纏って見事な走りでした。やはり今回はポルシェでしたね。サクセスウェイトの関係で順位はアレでしたけどインテルラゴスでもなにげにポルシェは一番速かったですし、ストレートが遅いからダメと言われたモンツァでも勝ちましたし、実はペンギン選手のマクラーレンって言われてるほどぶっちぎりで速かったワケじゃないんじゃないかなーと思ったりなんだり… まぁ みなさんがそう言うならそうなのかもしれませんけど……(ブツブツ)

ペンギン選手は7位フィニッシュ。最後は意地の走りでファステストラップを記録しました。これまでの経験上、FBCの最終戦は良いレースになることが多かったのですが、今回に限っては非常に後味の悪いレースとなってしまいました。不測の事態が起きたときの対応がマズすぎました。ただそれ以外の部分に限ればノーミスで走れたと思いますし、クルマ作りに関しても他の誰もできていなかった130Rの全開通過ができていましたので、そこに関しての悔いはありません。

シリーズランキングは最終的にEVO選手に抜かれて3位。今回のシリーズは、自業自得とはいえスパ以降で完全にリズムが狂っちゃいましたね……

シリーズチャンピオンはcara選手でした。オメデトウゴザイマス。非力なフェラーリでスゴイと思います、ホントに。適切なタイミングに適切な場所にいるという、レースで勝つツボを押さえた走りが素晴らしかったです。

やつれたチーム代表「えー、みなさん。先日は大変お疲れ様でした。惜しくもシリーズチャンピオンは逃しましたが、最後までペンギンレーシングらしい、美しく力強い走りができていたと思います。えー、そのー、私の力及ばず、残念ながら本日、今をもちましてチームは解散となりますが、私はこれからも、みなさんの新しい人生を陰ながら応援しております。今まで長い間、本当にありがとうございました!」

ぺんぎん「代表、オレしかいませんけど…」

やつれたチーム代表「いいんです! こういうのは形が大事なんです!」

ぺんぎん「最後まで形から入るタイプですね(笑)」

やつれたチーム代表「何とでも言いなさい。さ、そろそろスポンサー様と会う約束の時間ですよ。厳しい方々ですから、貴方も身だしなみをきちんとしてください!」

ぺんぎん「はーい」

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